2008年6月25日水曜日

第119回日本商工会議所簿記検定2級

 「ひねり」はあるが,いずれも基本的な問題であることに変わりがない。「ミス」が痛い結果を招くのでやはり下書用紙の丁寧な扱いが大事になるだろう。

問題1

 (2)と(3)がややひねり。修繕費と修繕引当金の組み合わせはこれまで何度も出題されているが,代金が後日払いというのは珍しい。また売買目的有価証券の取得と売却で,端数利息込みの受取代金から有価証券売却損益を算出するあたりが「ひねり」とはいえる。

(1)委託買付はいわば仕入れの延長線上にあり,さらに買付受託者に対して支払う手数料などが付随費用に相当することが理解できていれば難しい問題ではない。債権債務も委託買付勘定で処理することが見抜ければ仕訳はすぐ処理できる。

(2)修繕引当金と修繕費の処理。定番ではあるがさすがに少しだけひねってある。

(3)売買目的有価証券の取得と売却。片端入れの日割計算を慎重に行い,売却代金から売却損益を算出するのが新しい方法といえるか。

(4)法人税等の納付で事業税については問題の与え方から所得課税分であることが前提となっている。また選択勘定科目の中に租税公課勘定がないので外形標準課税の事業税ではないことも判明する。

(5)固定資産の滅失だがこれも定番。事故での滅失なので盗難未決算勘定や火災未決算勘定ではなく,未決算勘定で処理することが重要ということになる。

問題2

 伝票から仕訳日計表を作成し,さらに総勘定元帳と得意先元帳へ合計転記・個別転記するという問題。3級もそうだったが明らかに「基本への回帰」で,行き過ぎた「ひねり」ではなく,基本に立ち返る形での進出第傾向ということに成る。地道な基礎・基本からの記帳練習をつんでいる方にとってはあっけに取られるほど簡単な問題ではなかっただろうか。摘要欄が採点箇所になるかどうかは不明だが通常は総勘定元帳には仕訳日計表と記入し,得意先元帳には伝票の種類,仕丁欄には総勘定元帳には仕訳日計表のページ数,得意先元帳には伝票番号を記入するのが普通だが,これは記憶していなくても合計転記・個別転記する「元のデータ」がどこから来たのかを考えれば明らかであろう。良問。しかも易しい。

問題3

 精算表の作成問題。かなりオーソドックスな出題でこれは満点を狙いたい出題。これまで当座預金勘定の未処理事項としては,未取付小切手が多かったのだが,今回は締後入金というのがやや珍しい。株式交付費も月割償却の問題が出題され,社債の償却原価法も出題。そして商品保証引当金の戻入法の処理も出題されているが難易度は普通だろう。期日到来の有価証券の利札についても出題されており「基本への回帰」を印象付ける一問。テクニカルな方向に走るのではなく「理解を重視」という姿勢も見える。

問題4

 本社・工場会計の仕訳問題だが,一部ちょっとひねりのある問題もある。材料の仕入れと倉庫への搬入はさほど難しくないが,賃金・給料の計算ででてくる手待時間。機械装置の故障や停電など労働者には責任がない事情で発生した遊休時間のことで,これは賃金支払いの対象となる。ただし,直接作業にたずさわっているわけでもないので間接労務費として扱われるというのがポイントだ。段取時間は直接作業に付随するのでわかりやすいが手待時間については結構難しい判断となる。また減価償却累計額勘定が工場の経理部に設定されているという問題になるが通常は減価償却累計額勘定は本社に設置して減価償却費の管理をおこなうのが通常。考えればすぐ仕訳は出てくるがあまり(4)はいい仕訳問題とはいえないのではないか。

問題5

 工程別総合原価計算で正常仕損が工程途中で発生したケースで発生した時点が明確な場合とそうでない場合の両方のケースを問う問題だ。総合原価計算は一種の簡便法なので,工程途中の発生時点が確定できない場合には良品と期末仕掛品の両方に正常仕損費を負担させることになるが,ここまでしっかり抑えておくためには個別原価計算が原則で総合原価計算は一種の簡便法であるという実務からの理解も必要といえる。物理的な理屈ではなく「厳密ではないがそういうことにしよう」という実務上の便宜による計算方法が問われているわけだ。ちょっと難しいがやはり基本的な問題といえるだろう。

2008年6月24日火曜日

第119回日本商工会議所簿記検定3級

 難しいという説と易しいという説に二分されているようだが,基礎から網羅的に学習していればかなり易しい部類の出題だろう。おそらくパターン学習というのを出題者側が嫌がり,先進的な方向ではなく「基礎へ回帰」する形で出題されたのが今回の出題傾向ではないかと思う。

1

(1)手許にある受取手形の割引なので保証債務は関係なく手形割引の仕訳をすればよい。いずれは割引・裏書譲渡をした受取手形の仕訳も出題されるだろうが,それは案外早いのかもしれない。

(2)売買目的有価証券の取得だが付随費用を取得原価に加算するだけが論点。

(3)手形の振り出しによる借入金なので手形借入金勘定で処理することのみに注意。消費貸借契約書による場合には当然普通の借入金勘定ということになる。

(4)仮払金の精算の処理。抽象的な勘定科目から原因が判明したら具体的な勘定科目に振り返る。

(5)固定資産の購入と売却だが,これも付随費用で代金が後日受取なので未収金勘定となる。ただし土地の売買で未収金や未払金が発生することはあまり実務上考えられず,この問題は備品として出題するのが適切だったのではないかと思う。減価償却費の計算が含まれる分だけ多少問題が難しくはなるが,あまり不動産の売買で後日の代金受け払いの仕訳というのはどうなのだろうか。

2

 商品販売と売掛金に関する4月の取引を元に得意先元帳の特定の人名勘定口座を完成。さらに売掛金明細表を作成するという問題で,仕訳処理を丁寧に行い,さらに仕訳処理の段階で商店名をしっかり下書用紙に書いておくのがベスト。けっして難しい問題ではなくむしろ易しい問題だが,仕訳と得意先元帳や売掛金明細表との関係が理解できるという点で良問といえるだろう。

3

 過去問題で同じような出題があるが今回は仕入勘定ではなく売上原価勘定を設定して売上原価を計算するあたりにひねりがある。繰越試算表が決算整理後の貸借対照表項目を表しており,決算整理前の数値と比較することで空欄を埋めることができる。資本金については貸借差額で算定したが,簡単な損益計算書で期末資本金から当期純利益を差し引いて解答する方法もあるだろう。とはいえ結構数値が多いのでそこまでできるかどうか。試算表と決算整理仕訳と繰越試算表の関係を追及するのには非常にいい問題だ。

4

 これまたびっくりの収益の勘定科目のしかも標準式の完成。これがT字勘定だと非常にやさしすぎるわけだが,あえて標準式の勘定口座というあたりがやはり「基本への回帰」という姿勢がみえる。2級や1級にむけて基礎を構築するという本来の趣旨からするとやはり良問というべきだろう。自己振り出し小切手の受取という論点も含んでおり,手形についても理解を確認できるというのが味噌だ。

5

 これまで数回は出題されている空欄補充の精算表だがかなり現金過不足の問題には悩んだ。一応貸借は一致させたが,理屈として現金過不足の貸方勘定が3,000が取り崩されて雑益が1,000ということは残りの2,000は具体的な収益の勘定科目に振り替えられたということになる。受取手数料と受取利息のいずれかなのだが,一行に数値1個という限定条件があれば受取手数料勘定ということになるが,そうでなければ受取利息勘定でもよかったのではないか…という考えもある。ちょっとひねりすぎたのではないか,という考え方もあるがそれでも一箇所3点で計算してみればだいたい8割から9割は解けるので,実力の判定に現金過不足の論点はさして影響はないかもしれない。誤解が生じないような前提条件をもっと問題文に付加してもよかったのではないかと思う。

 とはいえよく出来ている第119回の3級の問題。複式簿記の基礎・基本の理解度を試し,計算能力や集計能力(つまりは下書用紙にいかに効率的に数値をまとめていけるか)も試せる。限られた試験範囲の中で工夫が随所に見られて非常にユニークな出題だ。