2008年11月11日火曜日

転記(posting)について

 名著の定義はやはり奥深く「財務会計概論第九版」の転記の定義は「転記とは取引発生順のデータベースを取引によって影響を受ける項目別のデータベースに組み替える作業」としている。
 短い定義だが、仕訳帳は確かに日々の取引を発生順に記録・計算・整理しているが、転記そのものは特殊仕訳帳から合計転記されるケースも含めると必ずしも取引発生順のデータベースにはならない。しかし金額そのものはその会計期間に発生した取引の記録のうち「項目別に再編成したデータベース」になっているわけで、個別転記のみならず合計転記も包含した奥深い定義である。

2008年10月29日水曜日

決算整理の新しいイメージ

 桜井久勝著「財務会計講義 第9版」の37ページには決算整理について面白い著述がなされている。だいたい一般的な書籍では、仕入勘定の勘定残高だけでは意味をなさないので決算整理仕訳によって売上原価の数値に修正するなどといった著述になるのだが、各勘定科目の勘定残高が経済的事実と一致しているかどうかを点検するとともに、経済的事実と一致しない場合に調整が必要になるという流れで決算整理仕訳を説明している。経済的事実というキーワードがまた慎重な学者らしい姿勢を見る(経済的実態という言葉を使わずに経済的事実というキーワードが両者を厳密に区分していることを示している)。
 決算整理が必要な主たる原因は「1期間中の取引に関する記録」は、現金の収支や財貨の受け渡しなどのように」「物理的に知覚できる現象」に着目して記録されている点にあるとするくだりも見事だ。物理的に知覚が困難な、たとえば見越しや繰り延べといった取引は、会計期間中には記録されないことが多いので、その調整のために決算整理が必要になるという論理である。
 具体例としては減価償却費と借入金の利息の処理が38ページにあげられているが、経済的事実との調整という身近なキーワードで説明可能な点も、読んでいて決算整理のイメージを膨らましてくれる。

2008年10月13日月曜日

当社引き受けの為替手形と当社振り出しの小切手

ある高名な出版社の高名な雑誌の入門チェックの問題で疑問。まず売掛金の回収として、当社振り出しの小切手\2,000、得意先B社振り出し当社引き受けの為替手形\4,000、当社振り出し仕入先宛の約束手形\6,000を受け取った…という設定なのだが(数値や文章はかなり変更)、解答がどうにも納得がいかない。貸し方に売掛金12,000が来るのは当然として、まず当社振り出しの小切手を受け取った場合には自社振り出しの小切手なので現金勘定ではなく当座預金勘定で処理しなければならない。また、得意先B社振り出し、当店宛の為替手形だが、これは正解では支払手形勘定の消滅として取り扱われている。模範解答としては、
(借)現金2,000(貸)売掛金12,000
             支払手形10,000
となっているが、まず現金勘定の2,000は当座預金2,000とするべきだろう。
 また自社振り出しの約束手形が手元に戻ってきた場合には確かに支払手形の消滅として扱うべきだが、自社宛で指図人が別に存在する場合に果たして支払手形の消滅として扱うのが妥当かどうか。指図人=引受人ということになり、いわゆる法律上の「混同」ということで手形債務が免除されるのであれば、為替手形を引き受けた段階で
(借)買掛金4,000(貸)支払手形4,000
という仕訳処理を行っていたのが、
(借)支払手形4,000(貸)売掛金4,000
という仕訳処理で「混同」で消滅した…という考え方だ。債権者と債務者が同一に帰属した場合に「混同」で消滅するという考え方ならばこの仕訳処理もありだとは思う。ただいずれにしても自社振り出しの小切手と第三者振り出しの小切手の区別ができていない時点でこの雑誌の解答は間違っていることには変わらない。
 おそらく問題としては為替手形の振出人の手元に振り出した為替手形が戻ってきた…という設定のほうが適切なのだろう。この場合、振出人は仕入勘定もしくは買掛金勘定と売掛金勘定を相殺する仕訳処理をおこなっているはずだが、その為替手形が手元にもどってくれば、今度は指図人に対して手形債権をもつことになるので、もし売上で振り出した為替手形が手元に戻ってくる…といった事態になれば、
(借)受取手形×××(貸)売上×××
という仕訳処理になる。

「混同」を問うのであれば自社振り出しの約束手形が自社振り出しの自己宛為替手形に限定しておかないと、ちょっと入門段階では踏み込みすぎの内容のような気がする。

2008年9月3日水曜日

原価の収集と原価の集計

 原価計算の場合,企業の継続的な経済活動において日々発生する原価を記録・計算・整理する必要があるが,これを複式簿記で網羅的に記録するのが第一段階で,特定の給付に関連づける作業は第二段階(原価の集計)と実際には2段階に分けて考えるのが便利だと思われる。一般的には費目別原価計算,部門別原価計算,製品別原価計算と3段階に分けるが,原価が発生した段階で製品などの給付別に分類するのは不可能だ。まずはどこで何がいくら発生したのかを網羅的に記録していくことが第一ステップで,この作業なしには直接原価計算も標準原価計算も意味がなくなる。

2008年8月11日月曜日

副産物

 原価計算基準28で副産物の処理などについて規定されている。個別原価計算にて副産物が発生する可能性は極めて低く、やはり継続指図書にて製造する総合原価計算に多い副産物という位置づけになるだろう。仕損品のように「失敗した製品」ではなく、かといって経営目的にかなう主産物でもないという副産物。「天麩羅」を作ろうとして必然的に発生する「天かす」のようなものと考えるのが妥当だろう。原価計算基準でも「副産物とは、主産物の製造過程から必然的に派生する物品」という定義をしている。原則的な処理は「主産物の総合原価から控除」だが、「(副産物を)売却して得た収入を原価計算外の収益とする」例外的な処理方法も認められている。作業くずや仕損品などの処理も基本的にはこの原価計算基準28の規定が準用されるので、実はこの副産物に関する原価計算基準28の意義は結構重たい。ただし実際に計算問題などで出題される場合に、副産物の発生が期末仕掛品の進捗度のさらに後の工程の場合には、原価計算基準の規定どおり総合原価から控除するべきだが、もし期末仕掛品よりも前の工程で副産物が発生した場合には、当月製造費用から副産物の評価額を控除するのが妥当ということになるだろう。
 総合原価計算の応用問題として、副産物をからめると、たとえば組別総合原価計算や等級別総合原価計算などと副産物、連産品と副産物(この組み合わせはよく見る)などが考えられる。実務的な重要性はあまり高くないと思われるが、受験簿記としてみると非常に美味しい論点なのかもしれない。原価計算基準では「発生」ではなく「派生」という言葉を使用しているが、これはこれでかなり深い内容を含むと考えられる。ただし深入りするよりも計算問題を解くほうが重要だろう。

2008年8月10日日曜日

消耗品と工場消耗品と工場消耗器具備品

 消耗品は商業簿記で使用される勘定科目で、だいたい切手や用紙代など日常感覚で用いる消耗品とそれほど意味は変わらないだろう。工場消耗品は、「工場」という言葉が単語の前についているので製造目的で消費される消耗品であることが明示されている。間接材料費のうちでも材料管理の重要性が乏しい材料、たとえば「原価計算」(国元書房)では、「機械油、グリス、電球、石鹸」といったものが具体例として挙げられている。たまに工業簿記で「燃料勘定」が使用されているケースがあるが、この場合には、石油や石炭などを一定程度使用する工場で、工場消耗品勘定で処理するのが妥当ではないと思われるケースで、工場消耗品とは区分して燃料勘定を使用するものと考えられる。いずにしても工場消耗品も燃料も継続記録法ではなく金額的に重要ではない間接材料であって、帳簿などでしっかり管理する必要がある金額的重要性のある間接材料費については、材料管理という観点でしっかり補助材料費として記録・管理するのが妥当だろう。
 そして工場消耗器具備品。10万円以下の固定資産(商業簿記でいえば備品)が該当し、となると「備品」という用語を使うのが妥当ではないような気もするが、「器具」であることには間違いない…ということでスパナや検査器具などが該当する。この場合には固定資産ではなくやはり間接材料費ということになるのが通例のようだが、「備品」という言葉よりも「器具」という言葉に重点が置かれた勘定科目と考えるのがよさそうだ。ただ消耗品であることには変わりがないので、工場消耗品と工場消耗品器具備品を明確に区分する必要性があるのかどうかは疑問だ。もし両方の勘定が使用されていた場合にはなんらかの工場もしくは会社の内部規定で使い分けが明確になされていると考えるのが妥当なのだろう。

原価の部門別原価計算

 原価計算基準に著述されている目的のうち、大別してしまうと「財務会計」と「管理会計」というわけ方もできる。部門別原価計算の場合、「財務会計」的な目的のために「製品原価の正確な計算」、「管理会計」的な目的のために「原価管理」といった考え方もできるだろう。原価計算基準では基準15にて原価の部門別計算の意義が述べられており、基準16に「原価部門の設定」としてその内容が詳述される。「原価部門とは、原価の発生を機能別、責任区分別に管理するとともに製品原価の計算を正確にするために、原価要素を分類集計する計算組織上の区分をいい、これを諸製造部門と諸補助部門とに分ける」(16)。機能別・責任区分別ということは、たいていの場合、作業区分とほぼ一致する形になるだろう。責任区分別に原価部門を設定し、原価部門ごとに原価管理をおこなう。通常の受験簿記では、修繕部門や組立部門といったように機能的・責任的な区分が行われて予算設定も原価部門ごとに行われているが、この原価部門のおこなう原価管理で予算差異が発生した場合には「組立部部長」などの管理責任が問われることになる。おそらく実際にはこの管理会計的な目的、つまり原価管理のほうが重要で、部門別原価計算を実施したからといって製品原価の正確な計算ができるとは限らない。活動基準原価計算のように「活動を重視」した原価管理というのもあるが、おそらく製品原価の正確な計算のためにも部門別原価計算は実際には副次的な目的ということになるだろう。

2008年8月9日土曜日

個別原価計算の意義

 日本商工会議所簿記検定で出題される個別原価計算は、原価計算表をいかに適正に作成するかに最終的には尽きる。データの集計能力はもちろんだが、費用別原価計算の段階でややこしい資料が与えられるという形が一般的で、本来あるべき個別原価計算の意義からすれば、データの読解と集計が最終的な問題解決ということになるわけだが、原価計算基準の31に個別原価計算の意義が定義されており、基本的にはその枠内での出題が多いのではないか。直接材料費や直接労務費は実際価格もしくは予定価格で、直接経費については原価計算基準32でわざわざ「原則として当該指図書に関する実際発生額をもって計算する」と断り書きがしてある。特許権使用料や外注加工賃などは確かにもう請求額のとおり原価計算表に記入すればよい。もっとも例外的に直接経費でも予定価格が使用されるケースはとうぜんありうるではあろうが…。
 個別原価計算の特質はむしろ問題を解くことよりも問題を分析することでより明らかになると考えられる。原価計算基準33は「間接費の配賦」について述べているが、個別原価計算は部門別原価計算を前提としておこなうべきとの著述がある(部門別原価計算については別途原価計算基準16で定義)。さらに単位原価の変動を避けるため〔製造間接費には固定費が含まれているので操業度によって単位原価が変動する)、予定配賦が原則とされている。個別原価計算を実務的に簡便化したと考えられる組別総合原価計算などでは特に予定配賦については言及されていないが、個別原価計算と同じ理由で予定配賦が原則と類推解釈できるであろう。そして「部門間接費の予定配賦率は一定期間における各部門の間接費予定額または固定製造間接費予定額および変動間接費予定額を、それぞれ同期間における当該部門の予定配賦基準をもって除して算定」と述べられており、予定配賦率は変動費と固定費を一括して計算しても変動費と固定費に分けて配賦率を計算しても原価計算基準では許容されていると読み取れる。製品原価の正確な計算を主目的にするならば無理に変動費と固定費に分解する必要性もなく、一括して予定配賦率を算定する方法もありうるということなのだろう。ただし原価管理をもう一つの目的として考えるならば、やはり固定費と変動費の区分配賦が望ましいと考えられる。

2008年8月8日金曜日

作業くず

 例として「個別原価計算を採用しているA製造会社において製造指図書♯201と製造指図書401を製造しているプロセスで作業くずが発生し、これを30,000円と評価した。ただし、この作業くずは製造指図書別に発生額を区別することができなかった」という問題を考えてみる。
 この場合、原価計算基準36の規定から考えていくことになるが、この原価計算基準36の規定そのものへの批判も多く、実は正解にたどり着くのは結構大変だ。実際には仕訳を丸暗記しているケースが多いのかもしれないが、ここは厳密に考えてみることにする。原価計算基準36で3は「個別原価計算において、作業くずは、これを総合原価計算の場合に準じて評価し、その発生部門の部門費から控除する。ただし必要ある場合には、これを当該製造指図書の直接材料費又は製造原価から控除することができる」という規定になっている。この原価計算基準36への批判というのは、処理が煩雑だからといっていきなり発生部門の部門費から控除するのではなく、発生原因とその負担を明確にした上でそれでも判別できないケースで、火発生部門費から控除すべきで原則と例外が逆ではないか…といったものだ。だがこの原価計算基準の規定でもこの例題は解けない。
 一つにはまず問題文からこの製造会社が部門別個別原価計算を採用しているのか単純個別原価計算を採用しているのかがわからないということだ。ただ単に「個別原価計算」と条件を設定しているだけで、他には何も条件設定がない。ただし同時に2つの種類の製品を製造していることは判明している。したがって、原則的な処理方法であれば仕訳処理は以下のようになるはずだ。
(借)作業くず 30,000 (貸)第一製造部門費 30,000
 部門別の内容がわからない以上はこれは仕訳処理としては妥当ではないだろう。では、製造指図書の直接材料費や製造原価から控除できるかというとこれもできない。問題文の条件にこの2つの製品の区別がつかないとあるのでつまり発生原因が判明していないからこの原価計算基準の例外規定も採用できない。となると実は最後は原価計算基準には規定はないが、作業くずの発生が材料や機械装置の使用上の誤りなどの工場全体で負担すべきと考えられる場合に該当するので発生した部門もわからないということで製造間接費から控除するという方法を採用せざるをえない。つまり以下の仕訳処理となる。
(借)作業くず 30,000 (貸)製造間接費 30,000


 あんまりいい問題とはいえないと個人的には思うが、作業くずには軽微な場合に、(借)現金 30,000 (貸)雑益 30,000 などとして実際に売却してしまった場合、コストベネフィットの観点で雑益処理してしまう方法もある。ただしこれは重要性の原則などで正当化できないこともないが、製造間接費から控除するときには原因は工場全体が負うという意思表示となるため、結局は、あんまり意味のない仕訳処理があるいは面倒だったのかのいずれかが理由ということになる。実際には作業くずが発生する製造部門というと「切削部門」などが暗黙の前提になっていると思うがそれすら特定できない場面での仕訳処理というのは、けっしてやさしい仕訳でもないし、論理的な仕訳処理とも思えない。原価計算基準がいかに古びているとはいっても、問題点をある程度把握した上で、原価計算基準上の原則的処理方法か例外的処理方法、もしくは理論的にあるべき製造指図書の直接材料費か製造原価から控除という形にするのが妥当ではないかと思われる。百歩譲れば2種類の商品で共通の直接材料費を使用していて、しかもどちらが原因かわからない…といった場面だが…。適用される「前提条件」としては相当にレアなケースといえるだろう。
 

2008年6月25日水曜日

第119回日本商工会議所簿記検定2級

 「ひねり」はあるが,いずれも基本的な問題であることに変わりがない。「ミス」が痛い結果を招くのでやはり下書用紙の丁寧な扱いが大事になるだろう。

問題1

 (2)と(3)がややひねり。修繕費と修繕引当金の組み合わせはこれまで何度も出題されているが,代金が後日払いというのは珍しい。また売買目的有価証券の取得と売却で,端数利息込みの受取代金から有価証券売却損益を算出するあたりが「ひねり」とはいえる。

(1)委託買付はいわば仕入れの延長線上にあり,さらに買付受託者に対して支払う手数料などが付随費用に相当することが理解できていれば難しい問題ではない。債権債務も委託買付勘定で処理することが見抜ければ仕訳はすぐ処理できる。

(2)修繕引当金と修繕費の処理。定番ではあるがさすがに少しだけひねってある。

(3)売買目的有価証券の取得と売却。片端入れの日割計算を慎重に行い,売却代金から売却損益を算出するのが新しい方法といえるか。

(4)法人税等の納付で事業税については問題の与え方から所得課税分であることが前提となっている。また選択勘定科目の中に租税公課勘定がないので外形標準課税の事業税ではないことも判明する。

(5)固定資産の滅失だがこれも定番。事故での滅失なので盗難未決算勘定や火災未決算勘定ではなく,未決算勘定で処理することが重要ということになる。

問題2

 伝票から仕訳日計表を作成し,さらに総勘定元帳と得意先元帳へ合計転記・個別転記するという問題。3級もそうだったが明らかに「基本への回帰」で,行き過ぎた「ひねり」ではなく,基本に立ち返る形での進出第傾向ということに成る。地道な基礎・基本からの記帳練習をつんでいる方にとってはあっけに取られるほど簡単な問題ではなかっただろうか。摘要欄が採点箇所になるかどうかは不明だが通常は総勘定元帳には仕訳日計表と記入し,得意先元帳には伝票の種類,仕丁欄には総勘定元帳には仕訳日計表のページ数,得意先元帳には伝票番号を記入するのが普通だが,これは記憶していなくても合計転記・個別転記する「元のデータ」がどこから来たのかを考えれば明らかであろう。良問。しかも易しい。

問題3

 精算表の作成問題。かなりオーソドックスな出題でこれは満点を狙いたい出題。これまで当座預金勘定の未処理事項としては,未取付小切手が多かったのだが,今回は締後入金というのがやや珍しい。株式交付費も月割償却の問題が出題され,社債の償却原価法も出題。そして商品保証引当金の戻入法の処理も出題されているが難易度は普通だろう。期日到来の有価証券の利札についても出題されており「基本への回帰」を印象付ける一問。テクニカルな方向に走るのではなく「理解を重視」という姿勢も見える。

問題4

 本社・工場会計の仕訳問題だが,一部ちょっとひねりのある問題もある。材料の仕入れと倉庫への搬入はさほど難しくないが,賃金・給料の計算ででてくる手待時間。機械装置の故障や停電など労働者には責任がない事情で発生した遊休時間のことで,これは賃金支払いの対象となる。ただし,直接作業にたずさわっているわけでもないので間接労務費として扱われるというのがポイントだ。段取時間は直接作業に付随するのでわかりやすいが手待時間については結構難しい判断となる。また減価償却累計額勘定が工場の経理部に設定されているという問題になるが通常は減価償却累計額勘定は本社に設置して減価償却費の管理をおこなうのが通常。考えればすぐ仕訳は出てくるがあまり(4)はいい仕訳問題とはいえないのではないか。

問題5

 工程別総合原価計算で正常仕損が工程途中で発生したケースで発生した時点が明確な場合とそうでない場合の両方のケースを問う問題だ。総合原価計算は一種の簡便法なので,工程途中の発生時点が確定できない場合には良品と期末仕掛品の両方に正常仕損費を負担させることになるが,ここまでしっかり抑えておくためには個別原価計算が原則で総合原価計算は一種の簡便法であるという実務からの理解も必要といえる。物理的な理屈ではなく「厳密ではないがそういうことにしよう」という実務上の便宜による計算方法が問われているわけだ。ちょっと難しいがやはり基本的な問題といえるだろう。

2008年6月24日火曜日

第119回日本商工会議所簿記検定3級

 難しいという説と易しいという説に二分されているようだが,基礎から網羅的に学習していればかなり易しい部類の出題だろう。おそらくパターン学習というのを出題者側が嫌がり,先進的な方向ではなく「基礎へ回帰」する形で出題されたのが今回の出題傾向ではないかと思う。

1

(1)手許にある受取手形の割引なので保証債務は関係なく手形割引の仕訳をすればよい。いずれは割引・裏書譲渡をした受取手形の仕訳も出題されるだろうが,それは案外早いのかもしれない。

(2)売買目的有価証券の取得だが付随費用を取得原価に加算するだけが論点。

(3)手形の振り出しによる借入金なので手形借入金勘定で処理することのみに注意。消費貸借契約書による場合には当然普通の借入金勘定ということになる。

(4)仮払金の精算の処理。抽象的な勘定科目から原因が判明したら具体的な勘定科目に振り返る。

(5)固定資産の購入と売却だが,これも付随費用で代金が後日受取なので未収金勘定となる。ただし土地の売買で未収金や未払金が発生することはあまり実務上考えられず,この問題は備品として出題するのが適切だったのではないかと思う。減価償却費の計算が含まれる分だけ多少問題が難しくはなるが,あまり不動産の売買で後日の代金受け払いの仕訳というのはどうなのだろうか。

2

 商品販売と売掛金に関する4月の取引を元に得意先元帳の特定の人名勘定口座を完成。さらに売掛金明細表を作成するという問題で,仕訳処理を丁寧に行い,さらに仕訳処理の段階で商店名をしっかり下書用紙に書いておくのがベスト。けっして難しい問題ではなくむしろ易しい問題だが,仕訳と得意先元帳や売掛金明細表との関係が理解できるという点で良問といえるだろう。

3

 過去問題で同じような出題があるが今回は仕入勘定ではなく売上原価勘定を設定して売上原価を計算するあたりにひねりがある。繰越試算表が決算整理後の貸借対照表項目を表しており,決算整理前の数値と比較することで空欄を埋めることができる。資本金については貸借差額で算定したが,簡単な損益計算書で期末資本金から当期純利益を差し引いて解答する方法もあるだろう。とはいえ結構数値が多いのでそこまでできるかどうか。試算表と決算整理仕訳と繰越試算表の関係を追及するのには非常にいい問題だ。

4

 これまたびっくりの収益の勘定科目のしかも標準式の完成。これがT字勘定だと非常にやさしすぎるわけだが,あえて標準式の勘定口座というあたりがやはり「基本への回帰」という姿勢がみえる。2級や1級にむけて基礎を構築するという本来の趣旨からするとやはり良問というべきだろう。自己振り出し小切手の受取という論点も含んでおり,手形についても理解を確認できるというのが味噌だ。

5

 これまで数回は出題されている空欄補充の精算表だがかなり現金過不足の問題には悩んだ。一応貸借は一致させたが,理屈として現金過不足の貸方勘定が3,000が取り崩されて雑益が1,000ということは残りの2,000は具体的な収益の勘定科目に振り替えられたということになる。受取手数料と受取利息のいずれかなのだが,一行に数値1個という限定条件があれば受取手数料勘定ということになるが,そうでなければ受取利息勘定でもよかったのではないか…という考えもある。ちょっとひねりすぎたのではないか,という考え方もあるがそれでも一箇所3点で計算してみればだいたい8割から9割は解けるので,実力の判定に現金過不足の論点はさして影響はないかもしれない。誤解が生じないような前提条件をもっと問題文に付加してもよかったのではないかと思う。

 とはいえよく出来ている第119回の3級の問題。複式簿記の基礎・基本の理解度を試し,計算能力や集計能力(つまりは下書用紙にいかに効率的に数値をまとめていけるか)も試せる。限られた試験範囲の中で工夫が随所に見られて非常にユニークな出題だ。

2008年5月5日月曜日

第118回日本商工会議所簿記検定2級

 合格率があまり高くなかったようだが、第2問の帳簿組織に戸惑った受験生が多かったためかもしれない。
第1問
(1)売上割引の典型問題。(2)は受託販売で債権・債務を受託販売勘定で処理する問題。これが預か金勘定や立替金勘定で処理する問題だとしたら手ごわいかもしれないが、この問題自体は非常に簡単。(3)は貨物引換証を取得して荷為替を引き受けるケース。貨物代表証券を取得した場合には一律に未着品勘定で処理し、荷為替手形の引き受けというのは取引先の振り出した自己受為替手形を引き受けることだと理解できていれば非常に簡単。銀行は担保として貨物代表証券をおさえているが、最終的にその貨物代表証券も自己受為替手形の引き受けと同時に手元に送付されてくるのでもし資金繰りが苦しくなっても届いた未着品を売り上げた代金を支払手形の弁済に投入することができる。(4)は利付き相場での売買目的有価証券の売却だが、これは少し仕訳処理をするまでに時間がかかるかもしれない。許容されている勘定科目の中に証券会社に支払う支払手数料勘定がないので純額で当座預金の増加を記入し、純額(手取り額)と売買目的有価証券の取得原価の差額を有価証券売却損益で処理することがわかる。また利付き相場なので、端数利息を日割りで計算する必要があり、売買までの一番近い利払日である3月31日の翌日、つまり4月1日から8月24日までを計算して端数利息を計算。基礎をすべて網羅してあり、売買目的有価証券の売却の問題としては完成度が非常に高いいい問題だと思う。(5)は単純な建設仮勘定の問題で、(4)のみ多少時間がかかるかもしれないが、あとは基礎レベルなので8割は得点したい。
第2問
 特殊仕訳帳の問題で二重仕訳控除の論点も含まれている。似たような問題は過去にも出題されているが、普通仕訳帳と当座預金出納帳の一部当座取引がないため、ある意味では簡単だ。ただし形式が見慣れない形式なのでこれがプレッシャーになったのかもしれないが。二重仕訳をチェックしてそれぞれの貸借差額を電卓で計算して埋めていけば実は簡単に答えが求まる。あまりパターン化されている形式ではないけれど、「実は簡単だ」と気がついた人はかなり早く全部解けてしまうという差がつく問題といえるかもしれない。
第3問
 勘定式の貸借対照表の作成問題。新会社法が施行されて初めて純資産の部が出題されたが、あまり難しいこともなく市販の問題集のほうが難しかったかもしれない。未処理事項も定番の未取付小切手が出題されておらず、未渡小切手や未決算勘定、仮払金勘定の処理など。決算整理では社債の償却原価法でついに月割償却(といっても6ヶ月だから計算は難しくないが…)が出題されたことと、社債発行費の実務対応指針19号に対応した社債の償却期間にわたる定額法償却が出題された点が注目。そうじて定番の決算整理事項の中で社債についてはやはり実務ではもう償却原価法がはやばやと定着してしまったのに本試験も対応したという感じ。もともと繰延資産の中でも唯一「社債発行差金」だけはソニーの有価証券報告書などにも掲載されており、実務の中では市場金利と実質金利の調整上、計上したくなくても計上せざるをえない繰延資産だったといえる。今回社債処理についてやや深いところまで出題されたのはある意味当然だろう。なにせ社債が売れないケースでは発行価額を引き下げざるを得ない…という当然の経済事情があるわけで。
第4問
 実際個別原価計算の問題。個別原価計算そのものは原価集計表をきっちり下書用紙にかけば満点がねらえるジャンルだが、それでも正答率が低いのはボックス図をかけば大体解ける総合原価計算に対策が偏っているせいではないかと想像する。あまり個別原価計算を指導するとはいっても結局黒板にかかれるのは原価計算表の地道な数字の羅列なので指導者にとっても指導しにくいジャンルなのかもしれない。製造原価報告書と月次損益計算書の作成だが、実際原価計算ということもあり解き易い。ただし、製造間接費の予定配賦や賃金の予定配賦を標準原価計算と勘違いしてしまうと正解から遠くなってしまう。実際原価と予定原価はともに消費数量〈時間)が実際のものであるかぎりは実際原価計算に分類されるということを再確認するとともに、消費数量も科学的に算定された標準消費量を使用するわけではないということも再確認する必要がある。非常にいい問題だと思う。
第5問
 単純総合原価計算で平均法の出題と、それに等価係数を導入した等級別原価計算をからめた問題。いずれも非常に易しいのだが、それは等級別原価計算には実際には4種類ぐらいの計算方法があるのに対して、出題されたのは完成品原価を等価係数×完成品数量で按分するだけ。問題の日本語の指示がやや長いのだが、それを全部きっちりよんで、読んだとおりに計算すれば問題はすぐ解ける構造。第2問と同じで問題文の長さにまどわされなければかなり楽に解けるいい問題。

 総じてこの第118回はかなりいい問題ばかり。第1問の(4)の仕訳問題の計算はやや面倒だが、しかし売買目的有価証券の売却の総合問題と考えればやはりかなりよく練られた問題といえるだろう。利付き相場や裸相場といった特殊な用語も問題文にはなく、ダミーとしての「専門用語」を用いていないのにも好感が持てる。

2008年3月22日土曜日

第118回日本商工会議所簿記検定3級

一通り問題を見てみたが、第3問の難易度がやや高く、ボリュームも多い。冷静に仕訳処理をして前期末貸借対照表の残高と合計していけば満点はとれるが、ここで時間をとるともっと簡単に点数が稼げる第4問・第5問に取り組む時間がなくなるケースも想定される。やはり第3問は一番最後に解くべき問題だったのだろう。

第1問
 売買目的有価証券の売却だが、切放法などまったく関係なくただ取得原価と売却価額の差額をもとめるだけ。備品の購入や期首再振替仕訳、消耗品の処理や商品券売上などどれも非常に簡単だ。消耗品の問題文から取得時に資産処理していることさえ見抜ければ特に難しいところは一つもない。
第2問
 主要簿と補助簿の問題だが、「てん末欄」の記入も含めてという意味だろうから、そこさえ間違えなければこれも簡単な問題だ。裏書譲渡した場合には、受取手形記入帳の「てん末」にその旨を記入することさえ忘れなければ(1)は大丈夫。(3)で発送費の半額負担の問題がでているが、これもまたこちら側で負担する分を売掛金で処理しようと立替金で処理しようと解答に変化がないことさえ理解できれば問題ない。商品を払い出しているのだから、商品有高帳の払出欄に記入することさえ想起しておけばよいだろう。
第3問
 これが非常に質・量ともにボリュームがある。仕訳を全部下書用紙に書いてから、T勘定に転記して合計数値を出すのにそれなりの時間が経過。手形の種類や引受などの用語に慣れていないと支払手形、受取手形、売掛金などは間違えてしまうので手形の基本を試されている問題ともいえるかもしれない。また期首再振替仕訳については第3問でも問われているし、発送費についても出題が及んでいる。また期中の固定資産売却もからんでいるので仕訳の一つ一つは簡単でも19日分の仕訳処理はけっこう面倒だ。いかに落ち着いて仕訳処理できたか、というのが肝心。
第4問
 3伝票制度だが、反射神経的に伝票といえば仕入伝票は買掛金で仕入れたものとする…といった発想を封じ込めるための出題だろう。取引を適切に分解して起票する方法で出題されているが、それほど難しくない。珍しいといえば珍しいのだが、それはやはり掛け仕入や掛け売上を前提とした伝票処理のほうが難しいからこれまで出題されてきたということにほかならず…。
第5問
 一部未処理事項を含む決算整理事項。3級にしては数字が細かくなるが10分もあればだいたい完答できるかなり易しいレベル。第3問とここでバランスをとったのかもしれない。消耗品についてもここで出題されており、かなり全体として出題論点が偏りを見せているのがやや気になる。見越し・繰り延べの処理もここ数回の中では最も易しいレベル。第3問でやや間違えても、第1問・第2問・第4問・第5問でかなり点数を上げることができたのではなかろうか。問題は一見第3問だけみると難しそうだが、実は全体としてはかなり易しい水準と思われる。

2008年3月5日水曜日

第117回日本商工会議所簿記検定2級

1

 ほとんどが定番の問題だが久方ぶりに割引手形の不渡りの問題が出題。法定利息を不渡手形勘定に含めて処理する点だけに注意すれば容易に解答。また受託買付については、立替金や前受金などの代わりに受託買付勘定を用いることに気が付けば委託販売や受託販売と同様に処理が可能。消費税については税抜方式が出題。実務を反映して仮受消費税が仮払消費税を上回る形式なのでさほど難しくはないだろう。固定資産の売却については生産高比例法の条件がやや面倒だが、その計算さえ確実にこなせば仕訳処理は容易。委託販売のでの積送品の送付と荷為替の取り組みも基本中の基本なので5問中5問もしくは4問は得点しておきたいところか。ただし委託販売については積送品の送付だけとかあるいは荷為替の取り組みだけという仕訳問題ではなく、両者が複合化しているのでそれが難しいといえるかもしれない。

2

 特殊仕訳帳から取引を推定して残高試算表を作成するというクラシックな出題。しかし受取手形の割引(一部当座取引)が当座預金出納帳では受取手形欄が設置されており、注意していないと特別欄をそのまま合計転記してしまうというトラップが目新しい。一部当座取引の場合には借方や貸方を問わず当座預金勘定とともに同じ側に別の勘定科目が生じる取引となり、当座預金勘定以外は普通仕訳帳からの個別転記となる。これが大原則だから特別欄を設置していても一部当座取引の個別転記の原則はもちろん貫かれるのだろうが…。そして一部当座取引については、手形の割引以外の典型的論点(たとえば固定資産や有価証券の売却や給料の支払い、金銭の借入など)では一部当座取引がないというのもパターンをはずした出題といえるかもしれない。売買目的有価証券の売却についてはすべて当座預金出納帳からの個別転記だし、給料の支払いも現金出納帳からの個別転記、借入金の返済も現金出納帳からの個別転記で、一部当座取引は、受取手形の割引のみ。そして一部現金取引が固定資産の売却にからんで一つという構成で、かなり変則的な特殊仕訳帳の問題ともいえる。給料の一部現金取引などがあるとかなり難しくなる可能性もあるのでそこを懸念して一部当座取引の数を減らしたのかもしれない。

3

 本支店会計の決算整理前残高試算表から未達取引を整理して、空欄を推定する問題と、決算整理後・未達事項整理後の売上総利益を算定する問題。さして難しい問題ではないのだが、未達事項の仕訳処理で一つでも間違えると大きな痛手をこうむるという構造問題。内部利益も一応期末商品のみ考慮に入れざるを得ないが基本的には満点を狙えるレベルの易しい問題といえるだろう。

第4問

 個別原価計算のやや難しい問題。総合原価計算はボックス図もしくはワークシートを作成すればほとんど解けない問題はないが、個別原価計算は丹念に原価計算表を作成してデータを整理していくのが早道だ。個別原価計算と総合原価計算の違いを最初から認識して解き方を分けていけば解答には割りと早くたどりつけたはずだが、最初からボックス図を書いてしまうとおそらく正解からは程遠い結果となる。

5

 直接原価計算の標準的な問題だが割り切れない数字と安全余裕率の数式を忘れてしまっている場合には致命的な失点となる。現在の売上高がどれだけ「安全なのか」を判断する指標が安全余裕率という認識があれば数値が割り切れなくても動揺することは少ないかもしれない。在庫がないというデータはおそらく仕掛品も含めて在庫がないという意味に理解するべきなのだろう。

2008年2月8日金曜日

第116回日本商工会議所簿記検定2級

1

有形固定資産の減価償却で車両運搬具の生産高比例法という珍しいが、しかし要償却額の計算で間違えやすい論点ともいえる。2.では売買目的有価証券の売却で日割計算の端数利息の計算が必要な問題が出題された。日割計算は基本だけにこれは仕方あるまい。支店間取引の本店集中計算制度が3.で出題されたがこれも基本問題のうちだろう。仕訳問題対策というよりも第3問対策の範疇で十分対応できる。会社法制度では初めての決算振替で当期純損失を繰越利益剰余金に振り返る決算振替仕訳。5.は未渡小切手の典型論点。ただし広告宣伝費の未渡小切手の論点が多かったのに対して今回は消耗品費だったのが印象的だ。

2

特殊仕訳帳(当座預金出納帳・仕入帳・売上帳・支払手形記入帳・受取手形記入帳)と普通仕訳帳の期中取引と試算表の前期末残高により、試算表の月中取引高欄と1月末残高欄を完成させる問題。一部当座取引が2箇所あるほかは売上帳の特別欄の条件がちょっと日本語として理解しにくかったのを除いては普通の問題だと思う。一部当座取引や特殊仕訳帳の帳簿組織体系を理解するのにはかなりの良問で、だいたいデータを集計して解答するまでに10分が目安になるだろうか。普通仕訳帳に期首再振替仕訳の論点があるほか小口現金の払い出しと補給、さらについに2級で出題された実務指針どおりの手形の割引と保証債務費用と保証債務の論点。二次的責任という言葉で説明されるが資産負債アプローチとしては、新たな金融負債の発生と理解すべきだろう(手形が不渡りになる確率を合理的に予測してその発生の可能性に応じて保証債務を金融負債として計上するという意味で)。株式会社会計の出題なのでいつかは出題されると思っていたが、帳簿組織で出題してくるあたりがまた良問といえるだろう。ただし個人商店で統計学的な金融負債の発生の認識までやるとは思えず、やはり2級と1級の出題範囲になるだろうか。ただそれを言い出すと個人商店で保有目的別に有価証券を分類するということ自体がありえず、3級で売買目的有価証券勘定が出題されているのにも違和感はあるのだが…。

3

 定番ともいえる精算表の作成。やや時間がかかる問題だが第2問と比較するとやはり第3問の精算表の作成から先に解くほうがベターかもしれない。精算表の作成(当座預金勘定残高の修正・貸倒引当金の見積もり・売買目的有価証券の評価・満期保有目的債券の評価・期末商品の評価・減価償却・株式交付費の償却・社債の償却原価法・見越し・繰り延べ)。当座預金勘定の修正については、未取立小切手の論点が出た。さらに償却原価法について取得した側の満期保有目的債券と発行した側の社債の両方が同時に出題され、新会計基準施行のもとではコントラストを配慮したいい決算整理事項の問題ともいえる。株式交付費についてはかなり易しい問題だが今後は月割償却の問題も当然出題されると思うっておくべきだろう。期末商品の評価については時価が原価を上回るという想定外の出題にやや驚き。ただし棚卸資産会計基準が強制適用される200841日以後は正味売却価額が原価を上回るケースについても想定の範囲内においておくべきだろう。「ちょっと難しめ」ではあるが、けっして「むちゃくちゃ難しい」という感じの精算表ではない。むしろ地道な努力が報われるタイプの良問だと思われる。

4

 異常に易しい部門別配賦表の作成の問題とその仕訳の問題。さすがにこれは得点源にするべき問題だろう。実際個別原価計算で部門別配賦表の作成なので特に悩むようなこともない。仕訳問題も補助部門から製造部門に原価配分するという原価フローの流れがわかっていれば、さして時間もかからずに解答できると思われる。

5

 これも易しい標準原価計算の問題。ただしいわゆる通常の標準原価計算の出題方式とは異なるタイプだが日本語読解力さえあればむしろ通常の出題パターンよりもはるかに易しい問題。全体的にこの116回の2級は工業簿記でしっかり40点を獲得して仕訳問題で8割、残りを第2問と第3問で取れる限りとる…という戦略が一番正しいようだ。解き方としては第1問→第4問→第5問→第3問→第2問だろうか。

第117回日本商工会議所簿記検定3級

1

(1)「決算にあたり」という文言を読み落とすと、現金過不足勘定で処理することになってしまうので問題文の読み込みがかなり重要な仕訳問題。こうした日本語の読解能力や注意力なども本試験では重要ということだろう。また、「従業員が本来負担すべき」費用を個人商店が負担した場合にはどの勘定科目で処理すべきか…という難しい問題を含む。事業主が資本金を引き出したわけではないので事実上の「立て替え払い」ということで「従業員立替金」勘定で処理するという非常に難しい問題だ。

(2)仕入代金の支払いに際して為替手形を振り出すケース。3級の場合には買掛金の決済のために為替手形を振り出すケースとこの仕入代金の支払いのために為替手形を振り出すケースがおそらく限界ではなかろうか。ただし2級になると「貨物代表証券を取得して為替手形を振り出した…」というような変形問題も考えられる。もともと指図証券という本質からすれば2級の未着品売買で為替手形が振り出されても良い。この場合には「(借)未着品×××(貸)売掛金×××」という仕訳処理になるだろう。複式簿記で為替手形が相殺すべき債権とは事実上「売掛金」に限定せざるをえないというのが、為替手形の「複雑さ」をある意味逆に反映している。

(3)償却債権取立益の問題だが貸し倒れた全額ではなくて一部のみが回収できたケース。実務上はこちらのパターンのほうが多いだろうし、良問というべきだろう。

(4)「給料」の仕組みを理解していないと仕訳処理のパターンだけでは解けないあたりが良問だ。実際に「給料天引き」を経験している社会人にはすぐわかる仕掛けだが…。

(5)引出金の問題だが、個人商店に対する所得税(事業主課税)をお店の現金で支払った場合についてまで学習の準備ができていたかどうかがポイントになるだろう。

2

 10月中の取引から当座預金勘定と当座借越勘定に記入する問題で、当座預金出納帳のような借方残高なのか貸方残高なのかをはっきりさせる下書用紙を書いておけばさほど難しくはない。なお二勘定制度の問題だが最終的な残高は一勘定制度と当然一致するので略式の当座勘定で当座預金勘定の月末残高の検証をすることもできる。

3

 平成1991日の残高試算表と平成199月中の取引から平成19930日の残高試算表の作成をする問題。条件文の与え方がやや変わっていて現金勘定や当座預金勘定の記入状況から取引を推定するもの。難しいものではないが、有価証券売却益がぽんと解答用紙に記載されていたり、支払利息の残高がさりげなく増加しているあたりがポイントか。ただし解答用紙や諸口などの条件を多少見過ごしても十分解答できるレベルの問題だ。

4

 売上原価対立法ともよばれる決算整理・決算振替仕訳の出題。これまでにも第5問などで売上原価勘定で売上原価を算定する方式は出題されていたが、ここまで念入りに4つの小問で問いかける問題は珍しい。ただし決算整理仕訳が慣れている人にとってはもう2~3分で解答可能だが、よく専門学校などで教えている「しいくりくりしい」といった暗記で決算整理をしている場合には、まったく出来ない受験生も出てくるという天国と地獄の境目が見えやすい問題かもしれない。

5

 精算表の空欄推定問題だが、貸借差額で数値を算定しなければならない箇所もあり、部分点で8割狙うというのが妥当な戦略か。ただ精算表作成には非常に強いタイプの受験生にはおそらく逆に100パーセント解答をめざすのも難しい作業ではない。未処理事項が4つあり、見越しと繰延の勘定科目を貸借で判断することさえ間違わなければ、だいたいのところは過去問題の範囲内ともいえる。

2008年2月7日木曜日

第116回日本商工会議所簿記検定3級

1(1)かねて振り出した為替手形がまた手許に戻ってきたケースが扱われている。この場合、名宛人に対して手形債権を有することになるので受取手形勘定で処理するわけだが、そこまで読み取れたかどうか。自己受為替手形や自己宛為替手形と勘違いした受験生も多かったかもしれない。

(2)典型的な固定資産の購入で未払金の問題。これは定番だろう。

(3)仮受金の内容が売掛金と前受金だった…という債権・最無関係の勘定科目の理解が試される問題。かなりいい問題ではないかと思われる。

(4)貸倒引当金が不足した場合にどうするか…ということでこれも典型論点。

(5)売買目的有価証券の売買の仕訳。取得原価に付随費用を加算するという基本が試されている。仕訳問題としては(1)がちょっと「ひねり」があるが、5問のうち4問が基礎的レベル。これは14点としても16点は確実にゲットしたいところだ。

2

 補助元帳として商品有高帳と仕入先元帳を使用し、さらにそれぞれの補助元帳の「前月繰越」が条件として設定されているケースだ。仕入先元帳には人名勘定を設定していない商店からも仕入取引があるのが「面白い」。基本的に前月繰越が明示されているので、月中の取引を丹念に仕訳して仕入先元帳に集計すれば、人名勘定の月末残高は算出できる。全部で8つの取引しかないのでさほどの手間ではなく、(1)に書いた仕訳をもとに仕入勘定を作成すれば(2)の純仕入高もすんなりもとまる。だが(3)の商品有高帳がやや面倒なように見えて、すべて商品別の仕入取引なので単価と個数のみを記入した簡単な商品有高帳を作成すれば払出欄に記入されるべき「売上原価」はすぐ出せる。問題2は下書用紙に仕入先元帳や商品有高帳をいかにコンパクトにまとめるかがポイントであろう。これをあまり詳細にメモしていくと正解は確実に出せるが時間が余計にかかるのは必定。商品有高帳や先入先出法の「本質」をとらえていれば5分もあれば地道な下書きだけで正解は出せるだろう。ただしパターン学習で「本質」を見失っているとわけのわからない方向にいってしまって時間の浪費につながる可能性も。あとまたこの手の問題は設問から先に読んで集計すべきデータを最初から意識しておくというのもテクニックの一つだろう。

問3

 月初の残高試算表から月中取引を考慮して月末の残高試算表を作成するという定番問題。既に論点は出尽くした感じもあるが、勘定科目ごとにダイレクトに転記していくほうが仕訳処理を全部書いてとくよりも実践的かもしれない。これはやはり仕訳能力の問題(集計能力の問題)だが、手形債権・手形債務・裏書譲渡といった用語を的確に理解していればさして仕訳処理で悩むことはないと思われる。

4

訂正仕訳の問題。(1)が償却債権取立益がらみで(2)が固定資産の売却。「取引記録の全部」ではなく、「記録の誤りを部分的に修正する方法による」という条件設定が目新しいぐらいか。

5

 やはりというべきか精算表の問題でしかも易しい。「毎年同額を支払う」という期首再振替仕訳を考慮しなくてはならない見越し・繰延もさして難しくは感じなくなってきた。「取引先振り出しの」から現金勘定を導出したり、仮払金の処理と備品の期中購入をからめるあたりが新しい感じで、さらに途中取得した備品については原価償却費の計算も考慮する必要がある。ただし定率法では難しすぎると判断したのか、固定資産についてはいずれも定額法だ。消耗品の費用法処理が出題されていたがこれは資産処理とあわせて学習を固めておく分野になるだろう。これまで決算整理仕訳は同じ勘定科目には「かぶさらない」などという俗説があったがこの問題では受取手数料勘定について借方と貸方に決算整理仕訳が記入される。かくして「俗説」はどんどん「打破」されていくということに…。