2008年8月8日金曜日

作業くず

 例として「個別原価計算を採用しているA製造会社において製造指図書♯201と製造指図書401を製造しているプロセスで作業くずが発生し、これを30,000円と評価した。ただし、この作業くずは製造指図書別に発生額を区別することができなかった」という問題を考えてみる。
 この場合、原価計算基準36の規定から考えていくことになるが、この原価計算基準36の規定そのものへの批判も多く、実は正解にたどり着くのは結構大変だ。実際には仕訳を丸暗記しているケースが多いのかもしれないが、ここは厳密に考えてみることにする。原価計算基準36で3は「個別原価計算において、作業くずは、これを総合原価計算の場合に準じて評価し、その発生部門の部門費から控除する。ただし必要ある場合には、これを当該製造指図書の直接材料費又は製造原価から控除することができる」という規定になっている。この原価計算基準36への批判というのは、処理が煩雑だからといっていきなり発生部門の部門費から控除するのではなく、発生原因とその負担を明確にした上でそれでも判別できないケースで、火発生部門費から控除すべきで原則と例外が逆ではないか…といったものだ。だがこの原価計算基準の規定でもこの例題は解けない。
 一つにはまず問題文からこの製造会社が部門別個別原価計算を採用しているのか単純個別原価計算を採用しているのかがわからないということだ。ただ単に「個別原価計算」と条件を設定しているだけで、他には何も条件設定がない。ただし同時に2つの種類の製品を製造していることは判明している。したがって、原則的な処理方法であれば仕訳処理は以下のようになるはずだ。
(借)作業くず 30,000 (貸)第一製造部門費 30,000
 部門別の内容がわからない以上はこれは仕訳処理としては妥当ではないだろう。では、製造指図書の直接材料費や製造原価から控除できるかというとこれもできない。問題文の条件にこの2つの製品の区別がつかないとあるのでつまり発生原因が判明していないからこの原価計算基準の例外規定も採用できない。となると実は最後は原価計算基準には規定はないが、作業くずの発生が材料や機械装置の使用上の誤りなどの工場全体で負担すべきと考えられる場合に該当するので発生した部門もわからないということで製造間接費から控除するという方法を採用せざるをえない。つまり以下の仕訳処理となる。
(借)作業くず 30,000 (貸)製造間接費 30,000


 あんまりいい問題とはいえないと個人的には思うが、作業くずには軽微な場合に、(借)現金 30,000 (貸)雑益 30,000 などとして実際に売却してしまった場合、コストベネフィットの観点で雑益処理してしまう方法もある。ただしこれは重要性の原則などで正当化できないこともないが、製造間接費から控除するときには原因は工場全体が負うという意思表示となるため、結局は、あんまり意味のない仕訳処理があるいは面倒だったのかのいずれかが理由ということになる。実際には作業くずが発生する製造部門というと「切削部門」などが暗黙の前提になっていると思うがそれすら特定できない場面での仕訳処理というのは、けっしてやさしい仕訳でもないし、論理的な仕訳処理とも思えない。原価計算基準がいかに古びているとはいっても、問題点をある程度把握した上で、原価計算基準上の原則的処理方法か例外的処理方法、もしくは理論的にあるべき製造指図書の直接材料費か製造原価から控除という形にするのが妥当ではないかと思われる。百歩譲れば2種類の商品で共通の直接材料費を使用していて、しかもどちらが原因かわからない…といった場面だが…。適用される「前提条件」としては相当にレアなケースといえるだろう。
 

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