2009年1月16日金曜日

品質原価計算について

 品質原価計算の「品質」とは,設計品質と適合性品質とに分けられる。設計品質は製品が顧客のニーズに適合していることをいい,適合性品質は製品が「設計仕様」に合致していることをいう。適合性品質が製造品質ともいわれるのはそのためである。設計品質は顧客のニーズに合った製品を供給するということで之は設計段階で行われる。
 新製品のパソコンを投入する場合,市場の動向などをかんがみて企業では設計していく。VISTAをもっと快適に動かすためにはメモリを4Gにして,ブルーレイも搭載して…と設計段階で顧客ニーズに応えようとして,その結果,顧客ニーズとのズレがなければ設計品質には問題がなかったことになるが,もし問題が発生したのであれば設計品質に問題が生じたことになる。また,設計図にしたがって工場で加工作業をして,設計図どおりに完成しなければ適合性品質に問題が発生するということになる。現時点では適合性品質に焦点が当てられており,①予防原価②評価原価(最終工程における品質管理など)③内部失敗原価(企業内部で発見された仕損品など)④外部失敗原価(出荷した後に発見される初期不良など)が例としてあげられよう。ただしいずれも貨幣的評価が非常に難しく,しかも現場では「失敗」をなるべく認めたくないというインセンティブが働くため,原価管理目的だけではなかなか品質原価計算が機能しないのではないかという懸念がある。

2008年11月11日火曜日

転記(posting)について

 名著の定義はやはり奥深く「財務会計概論第九版」の転記の定義は「転記とは取引発生順のデータベースを取引によって影響を受ける項目別のデータベースに組み替える作業」としている。
 短い定義だが、仕訳帳は確かに日々の取引を発生順に記録・計算・整理しているが、転記そのものは特殊仕訳帳から合計転記されるケースも含めると必ずしも取引発生順のデータベースにはならない。しかし金額そのものはその会計期間に発生した取引の記録のうち「項目別に再編成したデータベース」になっているわけで、個別転記のみならず合計転記も包含した奥深い定義である。

2008年10月29日水曜日

決算整理の新しいイメージ

 桜井久勝著「財務会計講義 第9版」の37ページには決算整理について面白い著述がなされている。だいたい一般的な書籍では、仕入勘定の勘定残高だけでは意味をなさないので決算整理仕訳によって売上原価の数値に修正するなどといった著述になるのだが、各勘定科目の勘定残高が経済的事実と一致しているかどうかを点検するとともに、経済的事実と一致しない場合に調整が必要になるという流れで決算整理仕訳を説明している。経済的事実というキーワードがまた慎重な学者らしい姿勢を見る(経済的実態という言葉を使わずに経済的事実というキーワードが両者を厳密に区分していることを示している)。
 決算整理が必要な主たる原因は「1期間中の取引に関する記録」は、現金の収支や財貨の受け渡しなどのように」「物理的に知覚できる現象」に着目して記録されている点にあるとするくだりも見事だ。物理的に知覚が困難な、たとえば見越しや繰り延べといった取引は、会計期間中には記録されないことが多いので、その調整のために決算整理が必要になるという論理である。
 具体例としては減価償却費と借入金の利息の処理が38ページにあげられているが、経済的事実との調整という身近なキーワードで説明可能な点も、読んでいて決算整理のイメージを膨らましてくれる。

2008年10月13日月曜日

当社引き受けの為替手形と当社振り出しの小切手

ある高名な出版社の高名な雑誌の入門チェックの問題で疑問。まず売掛金の回収として、当社振り出しの小切手\2,000、得意先B社振り出し当社引き受けの為替手形\4,000、当社振り出し仕入先宛の約束手形\6,000を受け取った…という設定なのだが(数値や文章はかなり変更)、解答がどうにも納得がいかない。貸し方に売掛金12,000が来るのは当然として、まず当社振り出しの小切手を受け取った場合には自社振り出しの小切手なので現金勘定ではなく当座預金勘定で処理しなければならない。また、得意先B社振り出し、当店宛の為替手形だが、これは正解では支払手形勘定の消滅として取り扱われている。模範解答としては、
(借)現金2,000(貸)売掛金12,000
             支払手形10,000
となっているが、まず現金勘定の2,000は当座預金2,000とするべきだろう。
 また自社振り出しの約束手形が手元に戻ってきた場合には確かに支払手形の消滅として扱うべきだが、自社宛で指図人が別に存在する場合に果たして支払手形の消滅として扱うのが妥当かどうか。指図人=引受人ということになり、いわゆる法律上の「混同」ということで手形債務が免除されるのであれば、為替手形を引き受けた段階で
(借)買掛金4,000(貸)支払手形4,000
という仕訳処理を行っていたのが、
(借)支払手形4,000(貸)売掛金4,000
という仕訳処理で「混同」で消滅した…という考え方だ。債権者と債務者が同一に帰属した場合に「混同」で消滅するという考え方ならばこの仕訳処理もありだとは思う。ただいずれにしても自社振り出しの小切手と第三者振り出しの小切手の区別ができていない時点でこの雑誌の解答は間違っていることには変わらない。
 おそらく問題としては為替手形の振出人の手元に振り出した為替手形が戻ってきた…という設定のほうが適切なのだろう。この場合、振出人は仕入勘定もしくは買掛金勘定と売掛金勘定を相殺する仕訳処理をおこなっているはずだが、その為替手形が手元にもどってくれば、今度は指図人に対して手形債権をもつことになるので、もし売上で振り出した為替手形が手元に戻ってくる…といった事態になれば、
(借)受取手形×××(貸)売上×××
という仕訳処理になる。

「混同」を問うのであれば自社振り出しの約束手形が自社振り出しの自己宛為替手形に限定しておかないと、ちょっと入門段階では踏み込みすぎの内容のような気がする。

2008年9月3日水曜日

原価の収集と原価の集計

 原価計算の場合,企業の継続的な経済活動において日々発生する原価を記録・計算・整理する必要があるが,これを複式簿記で網羅的に記録するのが第一段階で,特定の給付に関連づける作業は第二段階(原価の集計)と実際には2段階に分けて考えるのが便利だと思われる。一般的には費目別原価計算,部門別原価計算,製品別原価計算と3段階に分けるが,原価が発生した段階で製品などの給付別に分類するのは不可能だ。まずはどこで何がいくら発生したのかを網羅的に記録していくことが第一ステップで,この作業なしには直接原価計算も標準原価計算も意味がなくなる。

2008年8月11日月曜日

副産物

 原価計算基準28で副産物の処理などについて規定されている。個別原価計算にて副産物が発生する可能性は極めて低く、やはり継続指図書にて製造する総合原価計算に多い副産物という位置づけになるだろう。仕損品のように「失敗した製品」ではなく、かといって経営目的にかなう主産物でもないという副産物。「天麩羅」を作ろうとして必然的に発生する「天かす」のようなものと考えるのが妥当だろう。原価計算基準でも「副産物とは、主産物の製造過程から必然的に派生する物品」という定義をしている。原則的な処理は「主産物の総合原価から控除」だが、「(副産物を)売却して得た収入を原価計算外の収益とする」例外的な処理方法も認められている。作業くずや仕損品などの処理も基本的にはこの原価計算基準28の規定が準用されるので、実はこの副産物に関する原価計算基準28の意義は結構重たい。ただし実際に計算問題などで出題される場合に、副産物の発生が期末仕掛品の進捗度のさらに後の工程の場合には、原価計算基準の規定どおり総合原価から控除するべきだが、もし期末仕掛品よりも前の工程で副産物が発生した場合には、当月製造費用から副産物の評価額を控除するのが妥当ということになるだろう。
 総合原価計算の応用問題として、副産物をからめると、たとえば組別総合原価計算や等級別総合原価計算などと副産物、連産品と副産物(この組み合わせはよく見る)などが考えられる。実務的な重要性はあまり高くないと思われるが、受験簿記としてみると非常に美味しい論点なのかもしれない。原価計算基準では「発生」ではなく「派生」という言葉を使用しているが、これはこれでかなり深い内容を含むと考えられる。ただし深入りするよりも計算問題を解くほうが重要だろう。

2008年8月10日日曜日

消耗品と工場消耗品と工場消耗器具備品

 消耗品は商業簿記で使用される勘定科目で、だいたい切手や用紙代など日常感覚で用いる消耗品とそれほど意味は変わらないだろう。工場消耗品は、「工場」という言葉が単語の前についているので製造目的で消費される消耗品であることが明示されている。間接材料費のうちでも材料管理の重要性が乏しい材料、たとえば「原価計算」(国元書房)では、「機械油、グリス、電球、石鹸」といったものが具体例として挙げられている。たまに工業簿記で「燃料勘定」が使用されているケースがあるが、この場合には、石油や石炭などを一定程度使用する工場で、工場消耗品勘定で処理するのが妥当ではないと思われるケースで、工場消耗品とは区分して燃料勘定を使用するものと考えられる。いずにしても工場消耗品も燃料も継続記録法ではなく金額的に重要ではない間接材料であって、帳簿などでしっかり管理する必要がある金額的重要性のある間接材料費については、材料管理という観点でしっかり補助材料費として記録・管理するのが妥当だろう。
 そして工場消耗器具備品。10万円以下の固定資産(商業簿記でいえば備品)が該当し、となると「備品」という用語を使うのが妥当ではないような気もするが、「器具」であることには間違いない…ということでスパナや検査器具などが該当する。この場合には固定資産ではなくやはり間接材料費ということになるのが通例のようだが、「備品」という言葉よりも「器具」という言葉に重点が置かれた勘定科目と考えるのがよさそうだ。ただ消耗品であることには変わりがないので、工場消耗品と工場消耗品器具備品を明確に区分する必要性があるのかどうかは疑問だ。もし両方の勘定が使用されていた場合にはなんらかの工場もしくは会社の内部規定で使い分けが明確になされていると考えるのが妥当なのだろう。