2008年5月5日月曜日

第118回日本商工会議所簿記検定2級

 合格率があまり高くなかったようだが、第2問の帳簿組織に戸惑った受験生が多かったためかもしれない。
第1問
(1)売上割引の典型問題。(2)は受託販売で債権・債務を受託販売勘定で処理する問題。これが預か金勘定や立替金勘定で処理する問題だとしたら手ごわいかもしれないが、この問題自体は非常に簡単。(3)は貨物引換証を取得して荷為替を引き受けるケース。貨物代表証券を取得した場合には一律に未着品勘定で処理し、荷為替手形の引き受けというのは取引先の振り出した自己受為替手形を引き受けることだと理解できていれば非常に簡単。銀行は担保として貨物代表証券をおさえているが、最終的にその貨物代表証券も自己受為替手形の引き受けと同時に手元に送付されてくるのでもし資金繰りが苦しくなっても届いた未着品を売り上げた代金を支払手形の弁済に投入することができる。(4)は利付き相場での売買目的有価証券の売却だが、これは少し仕訳処理をするまでに時間がかかるかもしれない。許容されている勘定科目の中に証券会社に支払う支払手数料勘定がないので純額で当座預金の増加を記入し、純額(手取り額)と売買目的有価証券の取得原価の差額を有価証券売却損益で処理することがわかる。また利付き相場なので、端数利息を日割りで計算する必要があり、売買までの一番近い利払日である3月31日の翌日、つまり4月1日から8月24日までを計算して端数利息を計算。基礎をすべて網羅してあり、売買目的有価証券の売却の問題としては完成度が非常に高いいい問題だと思う。(5)は単純な建設仮勘定の問題で、(4)のみ多少時間がかかるかもしれないが、あとは基礎レベルなので8割は得点したい。
第2問
 特殊仕訳帳の問題で二重仕訳控除の論点も含まれている。似たような問題は過去にも出題されているが、普通仕訳帳と当座預金出納帳の一部当座取引がないため、ある意味では簡単だ。ただし形式が見慣れない形式なのでこれがプレッシャーになったのかもしれないが。二重仕訳をチェックしてそれぞれの貸借差額を電卓で計算して埋めていけば実は簡単に答えが求まる。あまりパターン化されている形式ではないけれど、「実は簡単だ」と気がついた人はかなり早く全部解けてしまうという差がつく問題といえるかもしれない。
第3問
 勘定式の貸借対照表の作成問題。新会社法が施行されて初めて純資産の部が出題されたが、あまり難しいこともなく市販の問題集のほうが難しかったかもしれない。未処理事項も定番の未取付小切手が出題されておらず、未渡小切手や未決算勘定、仮払金勘定の処理など。決算整理では社債の償却原価法でついに月割償却(といっても6ヶ月だから計算は難しくないが…)が出題されたことと、社債発行費の実務対応指針19号に対応した社債の償却期間にわたる定額法償却が出題された点が注目。そうじて定番の決算整理事項の中で社債についてはやはり実務ではもう償却原価法がはやばやと定着してしまったのに本試験も対応したという感じ。もともと繰延資産の中でも唯一「社債発行差金」だけはソニーの有価証券報告書などにも掲載されており、実務の中では市場金利と実質金利の調整上、計上したくなくても計上せざるをえない繰延資産だったといえる。今回社債処理についてやや深いところまで出題されたのはある意味当然だろう。なにせ社債が売れないケースでは発行価額を引き下げざるを得ない…という当然の経済事情があるわけで。
第4問
 実際個別原価計算の問題。個別原価計算そのものは原価集計表をきっちり下書用紙にかけば満点がねらえるジャンルだが、それでも正答率が低いのはボックス図をかけば大体解ける総合原価計算に対策が偏っているせいではないかと想像する。あまり個別原価計算を指導するとはいっても結局黒板にかかれるのは原価計算表の地道な数字の羅列なので指導者にとっても指導しにくいジャンルなのかもしれない。製造原価報告書と月次損益計算書の作成だが、実際原価計算ということもあり解き易い。ただし、製造間接費の予定配賦や賃金の予定配賦を標準原価計算と勘違いしてしまうと正解から遠くなってしまう。実際原価と予定原価はともに消費数量〈時間)が実際のものであるかぎりは実際原価計算に分類されるということを再確認するとともに、消費数量も科学的に算定された標準消費量を使用するわけではないということも再確認する必要がある。非常にいい問題だと思う。
第5問
 単純総合原価計算で平均法の出題と、それに等価係数を導入した等級別原価計算をからめた問題。いずれも非常に易しいのだが、それは等級別原価計算には実際には4種類ぐらいの計算方法があるのに対して、出題されたのは完成品原価を等価係数×完成品数量で按分するだけ。問題の日本語の指示がやや長いのだが、それを全部きっちりよんで、読んだとおりに計算すれば問題はすぐ解ける構造。第2問と同じで問題文の長さにまどわされなければかなり楽に解けるいい問題。

 総じてこの第118回はかなりいい問題ばかり。第1問の(4)の仕訳問題の計算はやや面倒だが、しかし売買目的有価証券の売却の総合問題と考えればやはりかなりよく練られた問題といえるだろう。利付き相場や裸相場といった特殊な用語も問題文にはなく、ダミーとしての「専門用語」を用いていないのにも好感が持てる。