2008年10月29日水曜日

決算整理の新しいイメージ

 桜井久勝著「財務会計講義 第9版」の37ページには決算整理について面白い著述がなされている。だいたい一般的な書籍では、仕入勘定の勘定残高だけでは意味をなさないので決算整理仕訳によって売上原価の数値に修正するなどといった著述になるのだが、各勘定科目の勘定残高が経済的事実と一致しているかどうかを点検するとともに、経済的事実と一致しない場合に調整が必要になるという流れで決算整理仕訳を説明している。経済的事実というキーワードがまた慎重な学者らしい姿勢を見る(経済的実態という言葉を使わずに経済的事実というキーワードが両者を厳密に区分していることを示している)。
 決算整理が必要な主たる原因は「1期間中の取引に関する記録」は、現金の収支や財貨の受け渡しなどのように」「物理的に知覚できる現象」に着目して記録されている点にあるとするくだりも見事だ。物理的に知覚が困難な、たとえば見越しや繰り延べといった取引は、会計期間中には記録されないことが多いので、その調整のために決算整理が必要になるという論理である。
 具体例としては減価償却費と借入金の利息の処理が38ページにあげられているが、経済的事実との調整という身近なキーワードで説明可能な点も、読んでいて決算整理のイメージを膨らましてくれる。

2008年10月13日月曜日

当社引き受けの為替手形と当社振り出しの小切手

ある高名な出版社の高名な雑誌の入門チェックの問題で疑問。まず売掛金の回収として、当社振り出しの小切手\2,000、得意先B社振り出し当社引き受けの為替手形\4,000、当社振り出し仕入先宛の約束手形\6,000を受け取った…という設定なのだが(数値や文章はかなり変更)、解答がどうにも納得がいかない。貸し方に売掛金12,000が来るのは当然として、まず当社振り出しの小切手を受け取った場合には自社振り出しの小切手なので現金勘定ではなく当座預金勘定で処理しなければならない。また、得意先B社振り出し、当店宛の為替手形だが、これは正解では支払手形勘定の消滅として取り扱われている。模範解答としては、
(借)現金2,000(貸)売掛金12,000
             支払手形10,000
となっているが、まず現金勘定の2,000は当座預金2,000とするべきだろう。
 また自社振り出しの約束手形が手元に戻ってきた場合には確かに支払手形の消滅として扱うべきだが、自社宛で指図人が別に存在する場合に果たして支払手形の消滅として扱うのが妥当かどうか。指図人=引受人ということになり、いわゆる法律上の「混同」ということで手形債務が免除されるのであれば、為替手形を引き受けた段階で
(借)買掛金4,000(貸)支払手形4,000
という仕訳処理を行っていたのが、
(借)支払手形4,000(貸)売掛金4,000
という仕訳処理で「混同」で消滅した…という考え方だ。債権者と債務者が同一に帰属した場合に「混同」で消滅するという考え方ならばこの仕訳処理もありだとは思う。ただいずれにしても自社振り出しの小切手と第三者振り出しの小切手の区別ができていない時点でこの雑誌の解答は間違っていることには変わらない。
 おそらく問題としては為替手形の振出人の手元に振り出した為替手形が戻ってきた…という設定のほうが適切なのだろう。この場合、振出人は仕入勘定もしくは買掛金勘定と売掛金勘定を相殺する仕訳処理をおこなっているはずだが、その為替手形が手元にもどってくれば、今度は指図人に対して手形債権をもつことになるので、もし売上で振り出した為替手形が手元に戻ってくる…といった事態になれば、
(借)受取手形×××(貸)売上×××
という仕訳処理になる。

「混同」を問うのであれば自社振り出しの約束手形が自社振り出しの自己宛為替手形に限定しておかないと、ちょっと入門段階では踏み込みすぎの内容のような気がする。