2008年2月8日金曜日

第116回日本商工会議所簿記検定2級

1

有形固定資産の減価償却で車両運搬具の生産高比例法という珍しいが、しかし要償却額の計算で間違えやすい論点ともいえる。2.では売買目的有価証券の売却で日割計算の端数利息の計算が必要な問題が出題された。日割計算は基本だけにこれは仕方あるまい。支店間取引の本店集中計算制度が3.で出題されたがこれも基本問題のうちだろう。仕訳問題対策というよりも第3問対策の範疇で十分対応できる。会社法制度では初めての決算振替で当期純損失を繰越利益剰余金に振り返る決算振替仕訳。5.は未渡小切手の典型論点。ただし広告宣伝費の未渡小切手の論点が多かったのに対して今回は消耗品費だったのが印象的だ。

2

特殊仕訳帳(当座預金出納帳・仕入帳・売上帳・支払手形記入帳・受取手形記入帳)と普通仕訳帳の期中取引と試算表の前期末残高により、試算表の月中取引高欄と1月末残高欄を完成させる問題。一部当座取引が2箇所あるほかは売上帳の特別欄の条件がちょっと日本語として理解しにくかったのを除いては普通の問題だと思う。一部当座取引や特殊仕訳帳の帳簿組織体系を理解するのにはかなりの良問で、だいたいデータを集計して解答するまでに10分が目安になるだろうか。普通仕訳帳に期首再振替仕訳の論点があるほか小口現金の払い出しと補給、さらについに2級で出題された実務指針どおりの手形の割引と保証債務費用と保証債務の論点。二次的責任という言葉で説明されるが資産負債アプローチとしては、新たな金融負債の発生と理解すべきだろう(手形が不渡りになる確率を合理的に予測してその発生の可能性に応じて保証債務を金融負債として計上するという意味で)。株式会社会計の出題なのでいつかは出題されると思っていたが、帳簿組織で出題してくるあたりがまた良問といえるだろう。ただし個人商店で統計学的な金融負債の発生の認識までやるとは思えず、やはり2級と1級の出題範囲になるだろうか。ただそれを言い出すと個人商店で保有目的別に有価証券を分類するということ自体がありえず、3級で売買目的有価証券勘定が出題されているのにも違和感はあるのだが…。

3

 定番ともいえる精算表の作成。やや時間がかかる問題だが第2問と比較するとやはり第3問の精算表の作成から先に解くほうがベターかもしれない。精算表の作成(当座預金勘定残高の修正・貸倒引当金の見積もり・売買目的有価証券の評価・満期保有目的債券の評価・期末商品の評価・減価償却・株式交付費の償却・社債の償却原価法・見越し・繰り延べ)。当座預金勘定の修正については、未取立小切手の論点が出た。さらに償却原価法について取得した側の満期保有目的債券と発行した側の社債の両方が同時に出題され、新会計基準施行のもとではコントラストを配慮したいい決算整理事項の問題ともいえる。株式交付費についてはかなり易しい問題だが今後は月割償却の問題も当然出題されると思うっておくべきだろう。期末商品の評価については時価が原価を上回るという想定外の出題にやや驚き。ただし棚卸資産会計基準が強制適用される200841日以後は正味売却価額が原価を上回るケースについても想定の範囲内においておくべきだろう。「ちょっと難しめ」ではあるが、けっして「むちゃくちゃ難しい」という感じの精算表ではない。むしろ地道な努力が報われるタイプの良問だと思われる。

4

 異常に易しい部門別配賦表の作成の問題とその仕訳の問題。さすがにこれは得点源にするべき問題だろう。実際個別原価計算で部門別配賦表の作成なので特に悩むようなこともない。仕訳問題も補助部門から製造部門に原価配分するという原価フローの流れがわかっていれば、さして時間もかからずに解答できると思われる。

5

 これも易しい標準原価計算の問題。ただしいわゆる通常の標準原価計算の出題方式とは異なるタイプだが日本語読解力さえあればむしろ通常の出題パターンよりもはるかに易しい問題。全体的にこの116回の2級は工業簿記でしっかり40点を獲得して仕訳問題で8割、残りを第2問と第3問で取れる限りとる…という戦略が一番正しいようだ。解き方としては第1問→第4問→第5問→第3問→第2問だろうか。

第117回日本商工会議所簿記検定3級

1

(1)「決算にあたり」という文言を読み落とすと、現金過不足勘定で処理することになってしまうので問題文の読み込みがかなり重要な仕訳問題。こうした日本語の読解能力や注意力なども本試験では重要ということだろう。また、「従業員が本来負担すべき」費用を個人商店が負担した場合にはどの勘定科目で処理すべきか…という難しい問題を含む。事業主が資本金を引き出したわけではないので事実上の「立て替え払い」ということで「従業員立替金」勘定で処理するという非常に難しい問題だ。

(2)仕入代金の支払いに際して為替手形を振り出すケース。3級の場合には買掛金の決済のために為替手形を振り出すケースとこの仕入代金の支払いのために為替手形を振り出すケースがおそらく限界ではなかろうか。ただし2級になると「貨物代表証券を取得して為替手形を振り出した…」というような変形問題も考えられる。もともと指図証券という本質からすれば2級の未着品売買で為替手形が振り出されても良い。この場合には「(借)未着品×××(貸)売掛金×××」という仕訳処理になるだろう。複式簿記で為替手形が相殺すべき債権とは事実上「売掛金」に限定せざるをえないというのが、為替手形の「複雑さ」をある意味逆に反映している。

(3)償却債権取立益の問題だが貸し倒れた全額ではなくて一部のみが回収できたケース。実務上はこちらのパターンのほうが多いだろうし、良問というべきだろう。

(4)「給料」の仕組みを理解していないと仕訳処理のパターンだけでは解けないあたりが良問だ。実際に「給料天引き」を経験している社会人にはすぐわかる仕掛けだが…。

(5)引出金の問題だが、個人商店に対する所得税(事業主課税)をお店の現金で支払った場合についてまで学習の準備ができていたかどうかがポイントになるだろう。

2

 10月中の取引から当座預金勘定と当座借越勘定に記入する問題で、当座預金出納帳のような借方残高なのか貸方残高なのかをはっきりさせる下書用紙を書いておけばさほど難しくはない。なお二勘定制度の問題だが最終的な残高は一勘定制度と当然一致するので略式の当座勘定で当座預金勘定の月末残高の検証をすることもできる。

3

 平成1991日の残高試算表と平成199月中の取引から平成19930日の残高試算表の作成をする問題。条件文の与え方がやや変わっていて現金勘定や当座預金勘定の記入状況から取引を推定するもの。難しいものではないが、有価証券売却益がぽんと解答用紙に記載されていたり、支払利息の残高がさりげなく増加しているあたりがポイントか。ただし解答用紙や諸口などの条件を多少見過ごしても十分解答できるレベルの問題だ。

4

 売上原価対立法ともよばれる決算整理・決算振替仕訳の出題。これまでにも第5問などで売上原価勘定で売上原価を算定する方式は出題されていたが、ここまで念入りに4つの小問で問いかける問題は珍しい。ただし決算整理仕訳が慣れている人にとってはもう2~3分で解答可能だが、よく専門学校などで教えている「しいくりくりしい」といった暗記で決算整理をしている場合には、まったく出来ない受験生も出てくるという天国と地獄の境目が見えやすい問題かもしれない。

5

 精算表の空欄推定問題だが、貸借差額で数値を算定しなければならない箇所もあり、部分点で8割狙うというのが妥当な戦略か。ただ精算表作成には非常に強いタイプの受験生にはおそらく逆に100パーセント解答をめざすのも難しい作業ではない。未処理事項が4つあり、見越しと繰延の勘定科目を貸借で判断することさえ間違わなければ、だいたいのところは過去問題の範囲内ともいえる。

2008年2月7日木曜日

第116回日本商工会議所簿記検定3級

1(1)かねて振り出した為替手形がまた手許に戻ってきたケースが扱われている。この場合、名宛人に対して手形債権を有することになるので受取手形勘定で処理するわけだが、そこまで読み取れたかどうか。自己受為替手形や自己宛為替手形と勘違いした受験生も多かったかもしれない。

(2)典型的な固定資産の購入で未払金の問題。これは定番だろう。

(3)仮受金の内容が売掛金と前受金だった…という債権・最無関係の勘定科目の理解が試される問題。かなりいい問題ではないかと思われる。

(4)貸倒引当金が不足した場合にどうするか…ということでこれも典型論点。

(5)売買目的有価証券の売買の仕訳。取得原価に付随費用を加算するという基本が試されている。仕訳問題としては(1)がちょっと「ひねり」があるが、5問のうち4問が基礎的レベル。これは14点としても16点は確実にゲットしたいところだ。

2

 補助元帳として商品有高帳と仕入先元帳を使用し、さらにそれぞれの補助元帳の「前月繰越」が条件として設定されているケースだ。仕入先元帳には人名勘定を設定していない商店からも仕入取引があるのが「面白い」。基本的に前月繰越が明示されているので、月中の取引を丹念に仕訳して仕入先元帳に集計すれば、人名勘定の月末残高は算出できる。全部で8つの取引しかないのでさほどの手間ではなく、(1)に書いた仕訳をもとに仕入勘定を作成すれば(2)の純仕入高もすんなりもとまる。だが(3)の商品有高帳がやや面倒なように見えて、すべて商品別の仕入取引なので単価と個数のみを記入した簡単な商品有高帳を作成すれば払出欄に記入されるべき「売上原価」はすぐ出せる。問題2は下書用紙に仕入先元帳や商品有高帳をいかにコンパクトにまとめるかがポイントであろう。これをあまり詳細にメモしていくと正解は確実に出せるが時間が余計にかかるのは必定。商品有高帳や先入先出法の「本質」をとらえていれば5分もあれば地道な下書きだけで正解は出せるだろう。ただしパターン学習で「本質」を見失っているとわけのわからない方向にいってしまって時間の浪費につながる可能性も。あとまたこの手の問題は設問から先に読んで集計すべきデータを最初から意識しておくというのもテクニックの一つだろう。

問3

 月初の残高試算表から月中取引を考慮して月末の残高試算表を作成するという定番問題。既に論点は出尽くした感じもあるが、勘定科目ごとにダイレクトに転記していくほうが仕訳処理を全部書いてとくよりも実践的かもしれない。これはやはり仕訳能力の問題(集計能力の問題)だが、手形債権・手形債務・裏書譲渡といった用語を的確に理解していればさして仕訳処理で悩むことはないと思われる。

4

訂正仕訳の問題。(1)が償却債権取立益がらみで(2)が固定資産の売却。「取引記録の全部」ではなく、「記録の誤りを部分的に修正する方法による」という条件設定が目新しいぐらいか。

5

 やはりというべきか精算表の問題でしかも易しい。「毎年同額を支払う」という期首再振替仕訳を考慮しなくてはならない見越し・繰延もさして難しくは感じなくなってきた。「取引先振り出しの」から現金勘定を導出したり、仮払金の処理と備品の期中購入をからめるあたりが新しい感じで、さらに途中取得した備品については原価償却費の計算も考慮する必要がある。ただし定率法では難しすぎると判断したのか、固定資産についてはいずれも定額法だ。消耗品の費用法処理が出題されていたがこれは資産処理とあわせて学習を固めておく分野になるだろう。これまで決算整理仕訳は同じ勘定科目には「かぶさらない」などという俗説があったがこの問題では受取手数料勘定について借方と貸方に決算整理仕訳が記入される。かくして「俗説」はどんどん「打破」されていくということに…。